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ディレクターは、ただ座っていればよい

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これは、僕が最初に教わった「ディレクターの極意」である。
日本大学藝術学部放送学科に入学して、ラジオ制作を専攻したときに恩師が教えてくれた言葉だ。

いいか金田。ディレクターというのは、ただ座っていればいいんだ。 お前が安心した顔で椅子に座っていれば、周りのみんなが安心できる。 ディレクターとは、そういうものなんだ。

正直なところ、この放送学科での授業の数々は、僕の好奇心や興味を充分過ぎるほど満たしてくれたけど、ラジオ番組制作のノウハウやテクニックは、実際にこの業界に入ってから学んだことの方がはるかに多かった。
だから、色々なところで「ラジオディレクターになるためには、やはり専門学校や日芸とかに行かなくちゃダメなの?」と質問されたときには、「もちろん専門分野を学べることは楽しいし身に付くことも多いけど、ノウハウやテクニックは業界に入ってからいくらでも学べる。だから普通の大学でも充分だよ」と答えるようにしている。

でも、「ただ座っていればよい」と僕に教えてくれたのは、大学の恩師だけだった。

ラジオに限った話ではないが、現場を仕切る人間が舞い上がったりてんぱったりしていると、その現場はあっという間に機能しなくなる。
だけど、たとえ自分が頭の中が真っ白でも、緊張と興奮で舞い上がっていても、ドッシリと座っていることで、出演者や周りのスタッフは安心して番組を進めることができるのだ。

まぁ、実際にはそうやってドッシリ座っているつもりでも、生放送の現場では膝だけがガクガクと震えているときもあったりした。
ゲストの山下達郎さんにいきなり「今、ここで歌って!」とパーソナリティーがお願いしたとき(それでも実際に歌ってくれた! でも、達郎さん周りのスタッフの視線は怖かった…^^;;;)、ある番組の最終回の最後の最後、時間を読み違えてエンディングテーマの曲がちょうど1分早く終わってしまったとき(これはパーソナリティーに無理やり1分トークで繋いでもらった)、出演者が遅刻して番組開始時間になってもスタジオに現れなかったとき(この時は、その場に居合わせた局アナさんとCDだけで無理やり時間を繋いだ)、風邪をこじらせて全く声が出なくなったパーソナリティーが放送開始の1時間前に泣きながら到着したとき(近くの総合病院に頼み込んでなんとか声が出るように注射を打ってもらった)…と、今思い出してもゾッとするようなことは度々あったけれど、こういう場面を乗り越えることが出来たのは、全てあの時の言葉が僕を支えてくれたからだ。

できるだけ平穏を装い、できれば笑顔のひとつも浮かべながら「それじゃあ、こうしましょう」と決断する。
「果たしてうまくいくだろうか?」と迷う前に、まずは決断するのだ。
そうすると、不思議なほどに現場の空気は心地よい緊張感と共に動き出す。
もちろん、動かしているのは出演者であり優秀なスタッフたち。
僕はその「きっかけ」を出しているに過ぎないのだ。
でも、この「きっかけ」があって初めて現場が動き出すということも、紛れもない事実だ。

呉 正恭 先生、今まで本当にありがとうございました。
先生のおかげで、今の僕がここにいます。
謹んでご冥福をお祈りします。

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2008年11月 7日 01:53に投稿されたエントリーのページです。

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