間違いなく今年のベスト1である「おくりびと」。
いつも拝読している 前田有一の超映画批評 に掲載されたので読んでみた。
ヴェネチアが大カントクにリップサービスしているのを真に受けて、日本のマスコミはそちらばかり報道していたが、真に注目すべきはモントリオール世界映画祭だった。ここでグランプリを受賞した『おくりびと』こそ、まさしく世界に誇るべき日本映画の傑作である。
ただ、ひとつだけ、どうしても気になる箇所があった。
死体独特の臭い(キョーレツな遺体処理を思わせる場面もある)やケガレのイメージから人々に差別され、妻にも本当の仕事内容言えぬ主人公──といった展開はいささか大げさすぎるものの、後に大きな感動をもたらす。
うーん、果たしてこの展開は「大げさ」なんだろうか?
例えば、自分の家族が埋葬されている墓地を気味悪いと思う人など皆無と言っていいだろう。
だけど、現実には「窓から墓地が見えるマンション」は価格が安くなり、自分たちの生活エリアに斎場を建設するプランがあると知ったら、住民による反対運動が起こるのが現実である。
「家族や知人の死」と、「自分とは関わりのない人の死」は、多くの人にとって別物なのだ。
映画「おくりびと」では、「見知らぬ人の死を扱う職業は気持ちが悪い」という世の中の一般的な認識を、時にはコミカルに、そして時にはシリアスに、様々な角度から描き出している。
そして、映画の登場人物は苦悩し、迷うのだ。
僕は、この作品の主題は、故人を「おくる」ことの意味であって、こういった世の中の矛盾については、あくまでも「外すことが出来ない重要なサイドストーリー」として描かれているのだと感じた。
でも、これはけして「切っても切り離せない」サイドストーリーだ。
自分が職を失って、成り行きのまま納棺師になったとする。
そして、その仕事をしていくうちに、自分の「仕事」に誇りを持てるようになったとき、それでも自分の周りの人達に差別されるかもしれないという想像力が、この“超映画批評”には欠けているのが残念だ。
もちろん、
なにしろ必見の一本である。
という締めの一文には全面的に同意するけれど。